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深層展開:アルゴリズムと深層学習のあいだ

はじめに

深層学習は画像処理や自然言語処理などで高い性能を示してきた強力な手法ですが,「なぜうまくいくのか分かりにくい」「モデルの中身で何が起きているのかを把握しにくい」と感じたことはありませんか.特に,計算手順やアルゴリズムの構造を重視してきた人にとっては,ブラックボックス的な側面が気になる場面も少なくありません.

深層展開(Deep Unfolding)は,このような問題意識に基づき,従来からある反復型アルゴリズムを,そのまま深層ニューラルネットワークの形に書き直す考え方です.学習を導入しつつも,アルゴリズムが本来持っている計算の意味や構造を明示的に保つことを重視しています.

アルゴリズムの構造を保ったまま学習を行うことで,「なぜその計算が必要なのか」を理解しながら性能を高めることが可能になります.これは,単に精度を上げるだけでなく,結果の解釈や改良を行いやすくするという点でも重要な特徴です.

情報科学部でこれまでに学んできたプログラミング,離散数学,アルゴリズム,確率・統計,線形モデルといった内容は,深層展開の考え方と強く関係しています.処理の流れを分解して考える力や,計算をコードとして表現する力は,この分野でそのまま活かすことができます.

数式をたくさん知っていることよりも,処理の流れを追い,実装し,動作を確認しながら考える姿勢が重要になります.そのため,学部段階の知識からでも研究に参加しやすい分野です.

深層展開とは何か

深層展開1

多くのアルゴリズムは,「同じ計算を何度も繰り返す」ことで徐々に解に近づいていきます.この反復構造は,アルゴリズムの設計思想そのものであり,各ステップには明確な役割があります.

深層展開では,この繰り返し計算を時間方向に展開し,各ステップをニューラルネットワークの層のように扱います.単に層を積み重ねるのではなく,もともとの更新則と一対一に対応づける点が特徴です.

各層の処理内容は,元のアルゴリズムに基づいているため,計算の意味を追いやすい構造になっています.その結果,学習を行っても,どの計算がどのように影響しているのかを考えやすくなります.

この構造を保ったまま,一部のパラメータを学習可能にすることで,従来法よりも少ない反復回数で高い性能を得ることができます.理論的な見通しと実用的な性能を両立できる点が,深層展開の大きな特徴です.

具体例:反復アルゴリズムの深層展開

深層展開2

代表的な例として,反復型アルゴリズムである ISTA があります.ISTA は,決まった更新式を繰り返し適用することで解を求める手法として広く知られています.

本来の ISTA では,更新式に含まれる係数やしきい値は固定されており,理論や経験に基づいて設定されます.深層展開では,これらのパラメータを層ごとに独立させ,データから学習可能な形にします.

これにより,アルゴリズムとしての意味を保ったまま,問題やデータに応じて動作を調整することができます.単なるブラックボックス学習とは異なり,更新の構造そのものが設計の中心にあります.

このように,「理論的に意味のある計算」と「データからの最適化」を同時に扱える点が,深層展開の特徴です.

応用分野の広がり

深層展開3

深層展開は,特定の分野だけに使われる手法ではありません.反復型アルゴリズムや最適化手法が用いられている場面であれば,その構造を深層展開として書き直すことができます.

そのため,画像再構成,データ解析,通信処理,生体情報解析など,さまざまな分野で研究が進められています.分野は異なっていても,基盤となる考え方は共通しています.

共通しているのは,「計算の流れがはっきりしているアルゴリズム」を,学習可能な形にするという点です.この点が,深層展開の汎用性を支えています.

制御への展開:時相深層展開

深層展開4

本研究室では,深層展開の考え方を,時間発展を伴う制御問題へ拡張する研究を行っています.制御では,状態が時間とともに変化し,その変化が入力によって因果的に決まるという特徴があります.

時相深層展開では,制御対象と制御則の構造を時間方向に展開し,各時刻の計算を層として表現します.これにより,時間的な因果関係を崩すことなく,学習を取り入れることができます.

制御則の一部を学習可能にすることで,理論に基づく設計とデータに基づく調整を無理なく統合することが可能になります.

検証例:数値シミュレーション

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時相深層展開は,数値シミュレーションを通じてその動作が検証されています.非線形系や複雑なダイナミクスを持つ系に対しても,安定した挙動が確認されています.

従来の制御手法と比較して,より少ない計算回数で解に到達できることや,条件の変化に対して柔軟に振る舞えることが示されています.

学習によって性能を向上させつつも,計算の流れや各処理の役割が明確な点が重要です.そのため,結果だけでなく,「なぜその挙動になったのか」を考察しやすい特徴があります.

時相深層展開の利点

深層展開6

時相深層展開の特徴は,数理モデルに基づく信頼性と,AIの柔軟性を一つの枠組みで統合している点にあります.理論と学習のどちらかに偏らない設計が可能になります.

有効性の面では,非線形系,時変系,大規模系など,多様な制御問題に対して高い性能が確認されています.既存のAI分野で用いられているオプティマイザをそのまま利用できる点も大きな利点です.

これにより,従来手法と比べて高速な収束や高い制御成功率を達成しています.また,制御対象の数理モデルが与えられれば,比較的短期間で動作するシステムを構築できます.

コード構造はシンプルで,パラメータやモデル構造の変更にも柔軟に対応できます.一つの枠組みで多様な制御問題を扱える点が,時相深層展開の大きな利点です.

学生のみなさんへのメッセージ

研究は,最初から高度な知識がそろっていないとできないものではありません.多くの場合,「この計算は何をしているのか」「なぜこの処理を繰り返すのか」といった素朴な疑問から始まります.

深層展開や時相深層展開の研究では,アルゴリズムの流れを追い,実装し,動かして確かめるという作業を何度も繰り返します.考えて手を動かし,結果を見てまた考える,という循環が研究の中心になります.

プログラミングやアルゴリズムが好きな人,計算の意味をじっくり考えるのが苦でない人であれば,どちらのタイプでも関わる余地があります.

配属後に必要となる理論は,研究を進めながら少しずつ身につけていきます.派手さはありませんが,「なぜうまく動くのか」を考え続ける研究に興味があれば,一度のぞいてみてもよいかもしれません.

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