情報科学として魚群を見る
本研究では,魚の群れを多数のエージェントが局所的な情報をもとに行動する分散システムとして捉え,その振る舞いを数理モデルと計算機シミュレーションによって解析しています.対象は魚ですが,扱っているのは情報の取得,判断,行動という情報科学の基本的な構造です.
魚群は,中央集権的な制御が存在しないにもかかわらず,全体として秩序ある運動を示します.この性質は,マルチエージェントシステムや群制御,自律分散アルゴリズムと共通しており,生物現象を通じて情報科学の考え方を具体的に学ぶことができます.
実環境に近い問題設定:定置網
実際の漁業では,魚は自由な空間を泳いでいるわけではなく,定置網のような構造物に囲まれた環境の中を移動します.定置網には複数種類の魚が同時に入り込み,目的としない魚は後から人手で分別されるという課題があります.
このような背景から,本研究では「制約された空間の中で,異なる特性を持つ魚がどのような集団構造を作るのか」を重要な問題設定として扱っています.現実の環境条件をモデルに組み込むことで,抽象的な群行動モデルを,より実問題に近い形で解析しています.
魚はどんな情報で動いているか
各個体は,周囲の魚との距離や向き,網との位置関係といった限られた情報をもとに,次の進行方向を決定します.本研究では,反発・整列・引き寄せといった基本的な相互作用を数式として明示的に記述します.
さらに,定置網に対する接近や回避といった行動もモデルに含めることで,環境と個体の相互作用を表現しています.このようなモデル化は,「どの情報が意思決定に使われているか」を明確にする点で,制御モデルやアルゴリズム設計と共通する考え方です.
異なる個体が混ざると何が起こるか
実際の魚群では,すべての個体が同じ性能や特性を持つとは限りません.遊泳速度や視野角などに違いがあると,群れ全体の振る舞いは大きく変化します.
シミュレーションを通じて,魚群が単に混ざるだけでなく,種類ごとに分かれたり,一方が他方に引き寄せられたりするなど,集団構造が時間とともに変化することが確認されています.個体レベルのわずかな差が,集団全体の挙動に影響を与える点が,本研究の重要な観点です.
環境を通じた間接的な制御
魚に直接命令を与えることはできませんが,環境条件を調整することで群れの振る舞いに影響を与えることは可能です.定置網の形状や配置,外部刺激などを変えることで,魚群の集まり方や移動の仕方が変化します.
本研究では,こうした環境要因を制御入力とみなし,群れ全体の挙動を望ましい方向へ誘導する可能性を検討しています.これは,ロボット群制御や環境を介した制御と同様に,「直接制御できない対象をどう扱うか」という情報科学的な課題につながっています.
学生のみなさんにとっての研究の入口
この研究テーマでは,数理モデルの構築,アルゴリズム設計,プログラミングによるシミュレーション,結果の可視化と解析までを一貫して扱います.生物学の専門知識がなくても,情報科学の基礎を使って取り組むことができます.
現実の問題をモデルとして抽象化し,計算によって振る舞いを理解するという流れは,情報科学部で学ぶ内容と直結しています.コードを書きながら,システム全体の構造を考えたい学生にとって,自然に入り込める研究テーマです.
